コラム:アジアバイクショーから思うこと、日本と同じ道を途中まで辿ってきた中国が向かう独自の歩み、OEM卒業ではなく続けながらの歩みを選択の理由とは

トランプ米大統領の訪中で、一気に世界経済の中での中国の立ち位置が変わろうとしているが、それより前から自転車界の中での中国の成長は目をみはるものがあった。安かろう悪かろうと言われ低賃金でローエンドの量産品を作っていた国が、今やイタリアやアメリカの大手メーカーがこぞって自社工場やOEM生産を委託する国になったのだ。積み重ねた技術をさらに独自に発展させることを得意としたことで、飛躍的に成長、そして今自社ブランドという新たなカードも用意し始めている。
日本ではその政治的対立も影響してか、嫌中を口にする人もおり、中国製品というだけで毛嫌いする人も多い。だがそんな人が乗っている自転車を見れば、どこかに必ず中国製品が組み合わさっているものだ。場合によってはメイド・イン・イタリーなどの塗装の下のカーボンフレームが中国製であることを知らない人さえいる。いつまでも発展途上の技術力ではなく、気がつけば知らず知らずのうちにその恩恵に預かっている、それが今自転車ユーザーの多くが置かれている状況だ。

『熟成期間に入りつつある気がする段階に ©CTJP 』
中国メーカーはOEMから卒業できなければメジャーブランドへの道はないという声をよく聞くが、果たしてそうなのだろうか?日本は戦後海外のOEMで発展してきた。当初はメイド・イン・ジャパンが粗悪品の代名詞でさえあったが、持ち前の研究心と向上心でコピー商品を作り、それで腕を磨き独自の進化を遂げ、その後経済の発展とともに自社ブランドを拡大してきた。ここまでは今現在の中国と同じではないだろうか。
しかしここからがちがうのだ。日本は成長とともに利幅拡大のために自国生産を生産を外国に委ねるようになったのだ。中国も同じように西洋や他のアジア各国のOEM生産拠点として発展、徐々に力をつけてきた。そしていま多くのブランドが自社ブランドを立ち上げている。ただ多くのメーカーはここから日本とは違う道を選択している。多くのメーカーにインタビューしたが、その全てが「OEM生産は継続したまま、自社ブランドを発展したい」と答えたのだ。理由を聞くと、「自社で技術革新させて、開発しているものを、あえて他の国に持っていく必要があるかい?雇用も生み出せるし、自国のためにも会社のためにもそのほうがメリットが大きいから。」この言葉にはっとさせられたのは言うまでもない。ただし実はこれは大国だから可能だったという側面もあり、当時の日本ではこの同じ考えは難しかったと言わざるをえない。

『マーケット確立のためのさらなる努力が求められる ©CTJP 』
今中国が直面しているのがコピー商品からの卒業だ。日本ではわかりやすく例を挙げると、独のカメラ、ライカやローライフレックスを真似て多くのカメラ会社が誕生、アパートの一部屋で組み付けを行ったことから4畳半メーカーと呼ばれるメーカーのみでアルファベットのAからZまで揃うと言われるほどにコピーブランドが乱立した。時代とともにそれらは淘汰されていき、ニコンやキャノン、ミノルタといった会社が残っていったのだ。これら企業はライカを超えるべく独自の技術を磨き、さいごにはライカとミノルタが提携を結ぶまでに至ったのだ。
中国でも同じように淘汰は進むのだろうか?今までは明らかにコピーブランドが多く、自転車産業もそれを見て見ぬふりを続けてきた。数年前は見られなかったことだが、今回の取材で、産業を管轄する国や産業自体が口を揃えてその撲滅を口にしたのだ。ここから感じられたのは、中国の産業界が自信をつけたということだ。もうコピーなどではなく、十分に自国の技術のみで勝負できる、だからそこへ尽力していくためにも、粗悪コピー品の市場を追いやらねばならないという意気込みを感じさせてくれた。
実際には広大な国土などを考えれば。完全な撲滅などは難しいだろう。しかしそれ以上に中国企業の自社ブランドが成長していけば、自ずとコピーする意味が薄れていくことになろうだろう。

『個性と技術はもはや一軍レベルに ©CTJP 』
実際にどれだけの中国企業が世界ブランドに成長するかはわからない。しかし考えてみて欲しい、ジャイアントやメリダなどの台湾ブランドが世界進出を目指した時、日本を含む世界のマーケットはそれを嘲笑したのだ。しかし今では嘲笑するどころか頭を下げる立場へと変わった。シェアを伸ばしプロチームが積極的に採用したことでマーケット自体も、憧れの眼差しで見るまでになったのだ。
これから数年後、もしかしたら中国ブランドは世界の大舞台で評価されるようになっているかもしれない。食わず嫌いではなく、その中身を見た上でその成長を見守ってみてはどうだろうか。そして今や日本の大手量産ブランドはほとんど日本で製造していないという事実、そしてメイド・イン・ジャパンを支えているのは30数名のハンドメイドビルダーだという現実をもっと直視すべき時だろう。
H.Moulinette