世界選手権個人TT:ジロ覇者のデュムランがチームTTとの2冠!先に出走のフルームにあわや追いつく快走!元スキージャンプ金メダリストのログリッチが銀メダル!フルーム銅
『最後の上りセクションがピュアTTスペシャリストの多くを苦しめた ©Tim D Waele 』
世界選手権の個人TTコースは、ゴール前3.4kmが平均勾配9%の頂上ゴール、レース前からTTスペシャリストのトニー・マルティン(カチューシャ・アルペシン)が不満を漏らしていた個人TT頂上決戦はTTは想像を遥かに上回る見ごたえあるバトルになった。
事前にゴール手前のこの上りセクションでのバイクチェンジが鍵になると言われていたが、メダルを獲得した選手たちは皆TTバイクでそのまま上ることを選択、バイク交換のタイムロスよりもそのまま最後まで上りきったほうがタイムロスが少ないという判断のほうが結果に繋がる形となった。
誰よりも圧倒的な速さでコースを駆け抜けたのはトム・デュムラン(オランダ)、チームTTと合わせて2冠となった。ブエルタ・ア・エスパーニャをスキップしてまでもメダルへの執着を見せた男が、その宣言通り個人TT金メダルを獲得してみせた。雨で濡れた路面が選手たちにリスクへを犯しての攻めへの抑制を求める中、デュムランはあまりにも圧倒的な走りで、中間計測でことごとくトップタイムを叩き出す。そして最後の上りへ突入するとその差をさらに広げようと攻めの走りを見せる。最後はあわや先にスタートしたフルームを捉えそうな距離まで迫る程の圧勝、今シーズンジロ・デ・イタリアを制して一躍スターダムに上り詰めた男が、念願のアルカンシエル、この強さは間違いなく本物だ。これでデュムランはオランダ人選手による初の個人TT制覇という称号も獲得した。
「正直言ってジロと期間が空いてしまったためにコンディション作りが難しかったよ。フィジカルもメンタルも万全とはいえなかったんだけど、現地入りしてなんか気分良く大会を迎えられたんだよね。チームTTで僕ら自身も予想していなかった勝利出来たことで、それでノッたんだよね。でもしょう時期このタイム差には驚いているよ。僕はコーナーでも慎重にゆっくりと走ったし、山岳でも後輪が滑るんで攻められなかったんだよね。まあ目の前にフルームが見えたときには気持ちよかったね。なんとか追いついてやろうと必死になったよ。まあでも追いつけなかったけどね。」デュムランは満面の笑みで語った。
「バイク交換はしなかったんだよ。事前の練習では、チームからもバイク交換が必要だと言われていたんだけど、でも実際には必要ないと判断したから、バイク交換をやめたんだよ。バイク交換をしたほうがタイムロスをすると思ったし、TTバイクで登っても問題を感じなかったんだよね。」
「もちろんロードも狙うよ。本命ではないだろうけど、3冠できたらすごいじゃん。そのチャンスが有るんだから狙ってみたいね。」デュムランの今の好調さを考えれば、どうなるかが非常に楽しみだ。
そのデュムランに次ぐ銀メダルを獲得したのはプリモズ・ログリッチ(スロヴェニア)、元ジュニアジャンプ団体金メダリストという異色の男だ。スキージャンプを断念、ホビーで乗り始めた自転車であっという間に頭角を現しそのままプロになってしまった男は、そのまま銀メダリストにまで上り詰めた。ステージレースの上りでも非凡な才能を発揮していたが、そういう意味では得意なTTと上りが組み合わさったこのステージはログリッチ向きだったといえるだろう。
中間計測で大きくデュムランよりも送れたのがダブルツールを達成したクリス・フルーム(イギリス)。疲れが心配されたがここまでチームTTにも個人TT にも参加、この個人TTではやはり本来のキレの有る走りは見られなかった。それでも前半のフラット区間を踏ん張り切ると、上りではきちんと本来の走りを見せチームTTに引き続き銅メダルを獲得した。しかしデュムランとのタイム差は1分21秒、そしてジロ同様にここでもデュムランは上りで素晴らしい走りを見せたことを考えれば、もし来シーズンデュムランがツール出場となれば、フルーム最大の難敵となりそうだ。
「デュムランはここ数年メキメキと力をつけてきたし、この結果には驚かないよ。今日は彼が強かったから勝ったということだよ。残り1kmぐらいで背後で大声援が聞こえたんだ、見たらオレンジのデュムランが見えたんだよ。でもまあそれで何か変わることはなくて、ただ最後まで自分のペースで走ることに専念したよ。TVの向こうでソファーでこのレース見ていることを選択しなくてよかったよ。そうしていたらきっと自分ならこのくらいの走りができた、とか後悔していただろうからね。今日はベストを尽くしたよ。」フルームは納得の表情でに語った。
ローハン・デニス(オーストラリア)は素晴らしい走りでデュムランのタイムに迫る中間計測だったが、濡れた路面に足元を救われ落車、メダルのチャンスは潰えてしまった。それでも8位という結果を残してみせた。
チームスカイ所属のヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)とジャンニ・モスコン(イタリア)が5位、6位と揃ってトップ10入り、フルームの銅メダルと合わせてチームスカイの力を見せつける格好となった。またデュムランが金メダルを獲得したチームサンウェブは、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)が7位、チームTTを制した勢いはここでも健在だった。
4位に入ったネルソン・オリベイラ(ポルトガル)はバイク交換をしてこのタイム、メダリスト3人がバイク交換をしなかったことを考えれば、その選択がメダルを逃す結果となってしまったかもしれない。
世界選手権男子エリート個人TT
金メダル トム・デュムラン(オランダ) 44’41”
銀メダル プリモズ・ログリッチ(スロヴェニア) +57”
銅メダル クリス・フルーム(イギリス) +1’21”
4位 ネルソン・オリベイラ(ポルトガル) +1’28”
5位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)
6位 ジャンニ・モスコン(イタリア) +1’29”
7位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ) +1’34”
8位 ローハン・デニス(オーストラリア) +1’37”
9位 トニー・マルティン(ドイツ) +1’39”
10位 ヤン・トラトニック(スロヴェニア) +1’43”
H.Moulinette