カーボン考察 其の一 カーボンってそんなにいいの?カーボンフレームのメリット&デメリット、カーボンの可能性とこれからの方向性を考える 其の一

ある時を境に、猛烈な勢いでカーボンが自転車業界を飲み込んでいった。最初は高嶺の花だったカーボンフレームも、製造コストが下がると一気に普及モデルにまで波及し、今やカーボンフレームしかラインアップにないメーカも多くある。しかしカーボンってそんなにいいの?そんなシンプルな疑問が頭をよぎる。そこでカーボンのメリット、デメリット、そして今後カーボンがどのように進んでいくのかを考えてみる。

『完成車で3.2kg、カーボンだとここまで出来てしまうのだ。』

『軽量化すると見た目も不安になる』
まずカーボンフレームのメリットを考えてみると、まずなんといってもその最大の武器は軽さだろう。創生期のカーボンフレームは、積層が厚かったこともあり、非常に重かったが、技術革新とはすごいもので、今では最軽量で500g台のフレームまで存在する。市販でも600g台はあちらこちらのメーカーで見られ、高級車、ハイエンドの大名詞ともなっている。その多くのフレームがモノコック製法で作られ、負荷がかかる部分は積層を厚くするなどの工夫がなされている。しかしそれは同時に極限まで薄く出来る部分は薄くということでもあり、超軽量フレームとなれば、そのパイプ部分を指で押せば、凹むほどにペラペラなのである。
つまりは、負荷の少ない部分を削ぎ落として得た軽量化とは究極の諸刃の剣なのだ。軽量化を追い求めた結果、脆さと言う最大の弱点をも生み出してしまったのだ。そのために転倒どころか、風で自転車が倒れただけでフレームが折れた、木の枝が刺さったなどというあり得ない事が起きるのだ。フレーム表面の擦り傷一つが致命傷になりかねない、そんな脆さと隣合わせの素材なのだ。

『手作業でのパイプ接続製造方法が今見直されている』
そんな中で一部メーカーや工房が行っているカーボンをカーボンのラグで継ぐ方法、またパイプ同士を直接接着し、カーボンコードで巻いて加工していくといった、パイプ・トゥ・パイプ製法がそんな弱点を克服した製造方法として注目されている。昔からあった手法であり、ローテクのイメージが強く、また非常に手間がかかることから大手メーカーとしてはあまり好んで採用しない方法だが、素材の革新がそれらの可能性を飛躍的に伸ばしたのだ。単純にこちらの製法のほうがモノコックに比べ重くなりそうに感じるが、そんなことは全くなく、パイプ同士を直結する手法でも600g台は可能であり、またカーボンラグで組まれるタイプは強度的に優れており、こちらもメリットは大きい。モノコック構造ではサイズごとに金型が必要だったのに対し、この手法ではより自由度が高いのもメリットだ。

『トライアスロン用バイクは今でも自由だ』
カーボンフレームはその設計により、振動吸収性を高めたり、剛性を高めたりなど、様々にその強度を設計を変えられるのもメリットだ。積層の枚数のみならず、カーボン繊維の折り方や向きなども選択でき、あらゆる状況を想定した設計ができるのだ。これにより乗り方やコースに合わせた設計のフレームを作ることが出来るだけでなく、重量配分をもコントロールすることさえ出来てしまう。また空力工学などに基づいて計算しつくされた設計することもでき、どんな複雑な形でも作れてしまうというメリットも有る。自由自在な設計が可能にする多様性、それはまだまだカーボンが大きな可能性を秘めているということだ。

『破損すると即凶器になりかねない』
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ただそれに反してカーボンフレーム最大のデメリットは、その劣化の早さと破断断面の危険性だろう。最近のものは寿命が飛躍的に伸びたが、それでもやはり金属などに比べればその寿命は圧倒的に短い。またカーボンは金属のように凹んだり曲がったりではなく、破断し易いのも特徴だ。 その破断箇所の鋭さは、切れ味鋭い凶器となるのだ。もちろん乗り手の怪我もあるが、ショップなどでもメカニックが破断したホイールやフレームで怪我をすることが多い。また厄介なことにカーボン繊維が刺さり、そのまま折れて体内に残ることもあり、注意しなければならない。これは木材や竹がささくれだっている状況を思い浮かべていただければわかりやすいかもしれない。
樹脂の劣化による積層の剥離は、単純に寿命が来たと認識するしか無い。また破断、亀裂と同様に修理も可能ではあるが、それはもはや元々の設計理論で考えぬかれた構造とは全く違ったものになってしまう。強度も変われば負荷バランスも変わってしまい、結果においてその補修が別の部分に余計な負荷を及ぼす結果となる。そうなると普段使い程度では問題ないが、やはりレース用としては向かない。ただやはり思い入れのある自転車は直しても使いたい、そんな人のために今では最先端の技術で修復を請け負ってくれる専門業者が僅かだがいるのは心強い。
H.Moulinette