ジロ・デ・イタリア2018プレゼンテーション、混沌の地イスラエルスタート、「スポーツに国境はない」 はずが論議を呼び正式資料が2転3転、そしてついにフルームがジロ制覇へ向け参戦決定

『ついにジロ出場のフルーム ©Tim D Waele 』
ジロ・デ・イタリアの主催者であるRCSがラブコールを送り続けていたクリス・フルーム(チームスカイ)がついに決断を下した。2018年度最初のグランツールであるジロ・デ・イタリアへの出場を宣言、今年度のツール~ブエルタのダブルツール(同一年ダブル)に加え、3大グランツール連続勝利をかけて勝負に出る。
自転車レース界の絶対王者となったフルームはやはりその置かれている立場を熟知している。求められるのは絶対的なエース像であり、レース界のアイコンとなるべき存在、今年度ダブルツールを達成できたことで、求めに応えるべく来シーズンはジロ~ツールのダブルを狙うと宣言した。
もしこのジロ・デ・イタリアを制すれば、同一年度ではないが、1年以内(365日以内)にすべてのグランツールを制覇することとなる。2018年度のコースは前21ステージ3546㎞、二つのTTと合計で39ものカテゴライズされた山頂が待ち構える。スタートはイスラエル、パレスチナ問題などもあり安全面ですでに多くの懸念材料があるが、まずはそこで3ステージが行われる。そして次にシチリア島で3ステージ、そしてイタリア本土へと戻ることとなる。来年度はUCIの新ルールにより各チームの人数が削減され、今年の198人から176人へと大幅に少なくなる。

『2018年度ジロ・デ・イタリアコース ©RCS 』
来年度のジロがイスラエル開催となるには大きな理由がある。まず一つはそのオープニングステージが、3度ジロを制した”ジーノ・バルタリ”ステージとなっていることだ。第2次世界大戦中、ナチス支配下に置かれていたイタリアへとハンドルバーの中に密書を潜ませて運び、それにより多くのユダヤ人が救われた、その功績を称えるためのイスラエルスタートともなっている。
ただしひとつ今回のプレゼンテーションで残念だったのは、パレスチナ問題にも関わる文言をルートマップとスピーチで行ったが、イスラエル政府がこれに反発、それらを削除しなければ「大会開催にも協力しないし、そのことにより大会がどれほどの危険に晒されるか」という脅迫まがいの圧力をかけたのだ。RCSは選手たちの安全を優先し、イスラエル政府に屈する形で変更を余儀なくされた。
そもそもイスラエル開催が公表された後の正式資料で、「首都エルサレム出発」としたことに国際人権団体の多くが一斉に猛反発、エルサレムはイスラエルにより侵攻を受け奪われた土地(東エルサレムが)であるとの国際認識が一般的であるとして、RCSは西エルサレム出発と表示を変えたのだ。しかしそれも結局さらに変更を強いられ、ただエルサレム出発という形に改められることとなった。
イスラエル自体、今大会のワイルドカードで地元のイスラエルサイクリングアカデミーがワイルドカードとして出場の可能性が高く、それを見越してチームは4つのイタリア大口スポンサーを獲得するなど、様々な思惑が露骨に露呈してきている。政治的に世界から孤立しつつあるイスラエルにとってはスポーツというフィルターを通して本来その状況を変えるチャンスであったはずが、さらに圧力を強めたことで、早くも国際的に非難にさらされる状況となっている。
そんなジロもイタリアへ戻れば、今度は第9ステージでパンターニ、そして第11ステージでスカルポーニを称えるステージが用意されている。そしてさらに第一次世界大戦終戦100周年を記念して戦没者への哀悼を込めたステージがいくつか用意されることとなる。
そして2018年度の最高到達地点、チマ・コッピは第19ステージ、2178mのコル・デル・フィネストレの未舗装路でのダートロードバトルとなる。
フルームの挑戦が気になるが、それと同時にさまざまな思いが込められた2018年度のジロ・デ・イタリア、平和の象徴となりうるスポーツがどこまでそうあることができるのかが問われることとなりそうだ。
H.Moulinette