世代最強の王者クリス・フルームがダブルツールを達成出来た理由はチーム力!チームスカイの綿密な戦略が可能にした勝利

秋にブエルタ・ア・エスパーニャが移ってから初めてのダブルツール、ツール・ド・フランス終了から僅か3週間後に行われた過酷なスペインでのレースを、安定した強さで勝利したクリス・フルーム(チームスカイ)は間違いなく歴史に語り継がれる最強の選手の一人となった。しかし今回のブエルタで際立ったのは、フルームの強さというよりは、”チームスカイの強さ”だった。

『ブエルタのベストショットと言えるだろう ©Tim D.Waele 』
もともとチーム力が高く、アシスト選手が他のチームであればエース格になれるような選手が揃うチームスカイ、徹底した組織力で知られ、それが肌に合わず移籍をする選手もいるほど統率力とチームワークに特化したチームづくりをしている。チームスカイトレインと呼ばれる組織力で、勝負どころの山岳になっても常にライバルたちよりも多くの選手を残しており、常に優位に展開する姿を多く目にする。

『最強の背中 ©Tim D.Waele 』
そして今年のブエルタではその傾向がさらに顕著だった。もちろんこれはフルームがツールの疲れからまだ完全に回復しきっていないこと。そしてその状態でも勝利するためには何をするべきかを考え抜いての戦略だっただろう。ツールのときとは違い、主要な山岳での直接対決で、フルームは徹底してマイペース走法で無理をしなかった。ただそのペースをいつもよりもわずかに早めに設定することでライバルたちに攻撃の隙を与えなかったのだ。アシストは一人が限界まで引き、そして脱落するとともに次のアシストが限界まで引く、これを繰り返せば当然ライバルチームには大打撃となる。相手のペースで走らされる上に順番にアシストが削られた他チームのエースは、自らが対応せざるを得ない状況となる。チームスカイはこれを連日のように淡々と繰り返し続けたのだ。

『最強の背中 ©Tim D.Waele 』
結局第3ステージから最終日までマイヨ・ロホを守り抜く完璧な戦い、フルーム一人の力ではなく、このブエルタの勝利はチーム力あっての勝利だったといえるだろう。事実フルームも連日のように「チームのおかげ」と言い続けてきた。それほどまでにチーム力の差と言うものがはっきりと違いとして認識できたのが今大会だったといえるだろう。「とにかく今回のグランツールは今まで走ってきたレースの中で一番苦しかった」そうフルームが大会後そう口にしたのは、やはり今大会フルームは疲労から我慢の走りを強いられたことからだ。だからこそチーム力の差が最終結果に大きな差をもたらしたことをフルームはチームへの感謝を示すことで主張していたのだ。
「まだなんとも言えないけど、皆が望んでるのは来シーズンのジロに出場してのグランツール3連勝だろ。まだ何も確定していないけど、まずは冬場のトレーニングをきっちり行って、そしてその上で来年度の予定を決めるよ。だから今の段階でジロ挑戦を除外したりはしないよ。どのみちいずれは狙わなければいけないタイトルだからね。でも現段階では来シーズンもツール・ド・フランスで5度目の総合勝利を狙うのは確定的だよ。だからそれとの兼ね合いになるだろうね。」
「最終日のスプリント賞争いは、リスクを負ってまでやるべきではないとか言われたけど、でも僕は選手なんだよ。みすみすタイトルを明け渡す必要なんて無いだろ。そもそも僕がグランツールでスプリント達が競い合うポイント賞を取れるチャンスなんてそうそうないんだからね。だったらそれを取りたいと思ったし、何もしないで翌日の朝後悔して目覚めが悪いのは最悪だからね。」

『したたかな王者フルーム ©Tim D.Waele 』
最後の最後まで全力を尽くすというフルームの姿勢は、王者たるもの手を抜かない、という明確な意思表示だった。常に攻めながらも、決して無理して自爆しないようにセルフコントロール、そしてそれをチームメイトがきっちりと支えきる。フルームはたしかに世代最強だが、その最強を支えているのは世代最強のチーム、チームスカイであることを忘れてはならない。
「いつかコンタドールみたいにおしゃれな引退をしたいね。」そう語ったフルームだが、その目にはまだまだ現役生活しか映っていないだろう。次は世界選手権、まだ出場を決め兼ねているようだが、この男なら更なり栄冠を狙いに来るかもしれない。
H.Moulinette