ペダリング技術の向上で実力は上がる?


『ペダリングの指導をするクリストファー・サットン(オーストラリア)』
技術面を考えてみたとき、サイクリングは実にシンプルなスポーツだと思う方もいるだろう。しかし、ペダリングの仕方およびペダリング効率を最大限にするためにはどうしたらいいかといった理論が、長きにわたって発展してきているのも事実だ。
臨床的見地からすると、自転車は固定された弧を描きながら動く両脚を支えているといえる。丈夫な靴を履き、シュークリートをペダルに固定し、基本的に足がクランクアームの先端に取り付けられているというわけである。ペダルを回したとき、この「閉鎖された環」は極めて予想に近い動きを見せ、人によってスタイルが違ってしまうということはほとんどない。
実際のところ、ペダリング中の足の動きのパターンについての研究を見てみると、運動レベル、地形、シッティングかダンシングかに関係なく、全サイクリストの足の動きはかなり似通っている。これは、ランナーの脚の運びや水泳の自由形での腕の動きが千差万別であるのとは対照的だ。つまり、ここで一番大切な問題は、ペダリング技術を磨くことでパフォーマンスは向上するのか、するとすればどのようにすればいいのか、ということになる。
足の動き
サイクリストたちは多くの方法を使って代謝効率(ある値の酸素消費量に対する出力の値)を向上させようとしてきた。その中でもとりわけ、上方向に足を引き上げることを強く意識してペダリングしたり、足首の角度をいく通りにも変えてみたりするといったことが目立つ。そうしたテクニックの正確なメソッド、用語、説明は、あなたが誰の指導法の本を読んだかによって異なる。はっきり言っておくが、それらのメソッドが、単純に片足ずつペダルを「踏む」ことに集中することに比べてめざましく効率が向上するといった証拠はどこにもない。強い選手たちは遅い選手たちよりもペダルを強く踏む、だからこそ彼らの方が速く走っている。実に単純である。
ルール1:ペダルを踏む。それ以上特別に足の動きを分析しないこと。
プロ選手の真似をする
プロ選手は体力があるから代謝効率に優れているのか、それとも体力をつけたから代謝効率が高いのか。それについて知ることは難しい。代謝効率の推移がわかるようなエリート選手たちのキャリアを追った研究はほとんどなく、この調査をサポートするようなデータは存在しない。
しかし、有名なものとして、初期のランス・アームストロングの代謝効率の推移を示したデータがあり(下記の表を参照)、これによると数値の変化はトレーニングと成長による筋肉構造の変化が原因であるとされている。しかし、このデータに疑問を投げかける研究者も複数いる。彼らの意見は、期間調査が1年ごとの比較になっていないこと、最大酸素摂取量と体重のほうが代謝効率よりも変化が顕著であること、そして最も重要なこととして、データ収集に根本的な問題があり、7年間のデータ比較をすることは不可能であるということである。確かに、コイル氏によって提出されたデータはアームストロングのコンディション向上を示している。だが、代謝効率の向上については以降アームストロングが成功した原因というよりは間接的に観察されたものといえるかもしれない。

『ランスの年代別代謝効率(%パワー換算)と1分あたり酸素消費5リットルの出力(ワット)』
同様に、ホビーサイクリストから世界レベルまで、69名のサイクリストに対して行なわれた研究によると、活躍の範囲に大きな差がありながらも代謝効率について明らかな違いはないという。つまり、高い代謝効率よりも、サイクリングのプロとして活躍するのにカギとなるのは、最大出力、有酸素運動における燃焼効率、戦術的認識、そして疲労に対しての抵抗力だということだ。
<font color=”indianred”>ルール2:あなたの代謝効率の最大値はすでにおおかた決まっている。しかし、体脂肪率の減少、バイクの重量、強さとパワーの増幅、よりすぐれた戦術、そしてスポーツをする上での正しい食事があなたをよりよいライダーにしてくれる。</font>
運動第一
よくある思い込みで、エリート選手たちはトップになるために似かよった体質を持っていなければならないというのがある。その一つに、毎年すさまじい距離を走行する(年間25,000~45,000km)ので、エリート選手というのは高い代謝効率を持たなくてはならないということが言われている。しかし、これには論議の余地がある。プロチームから集めたデータによると世界レベルの出力400ワット程度(体重1キロあたり5ワット)の選手たち12名の代謝効率は20.9%~28%と開きがある。つまり、平均から超人のレベルがあるということだ。彼らが皆エリートレベルで全員がすさまじい距離を年間走行していることを考えると、この差の開きは非常に大きい。
面白いことに、この調査を行なったスペインのチームで、最大酸素摂取量が低い選手は代謝効率を高めることでその短所を補うことができると実際示されているということだ。さらに興味深いことに、この現象(最大酸素摂取量が並で代謝効率がより高い)は複数のランニング生体力学の研究者たちによっても示唆されている。
高ケイデンスが良い?
多くの人たちがランス・アームストロングのライディング能力を研究し、全てのサイクリストたちにとってケイデンスは95-100rpmがベストと(間違って)推定した。しかし、いくつか明らかなことについて挙げてみることとする。
プロ選手たちが高ケイデンスを使うのは、TTまたは20~60分の登りで400~500ワット出すからである。
ステージレースにおいては高ケイデンスで走行したほうが回復しやすい。だからエネルギー温存のために彼らはこの走行法を選ぶ。したがって、ランスはTTのときケイデンスは100rpmで、出力450ワット以上を維持していた。ここまでの力のない選手たちは250~350ワット、よってケイデンスもかなり低くなり、75~85rpmとなる。これは登りのとき特に顕著で、多くのサイクリストが70rpm程度で代謝効率(そして登りの能力)を上げることができる。
コンピューターは出力100、200、300、400ワットのサイクリングの適正ケイデンスはそれぞれ57、70、86、99rpmであるという数字を示した。これは、ケイデンスは95rpmを目指すべきであるという長年のアドバイスに疑問を投げかけるもの、なぜなら「それはプロがやること」だから。だが、この分野の研究において科学者たちの結論は「低~中負荷のサイクリングで比較的高ケイデンスを選択するというのは無駄が多く、長距離では危険にもなり得る」という。
ルール3:自分の出力に合ったケイデンスを選択すること。ゆっくりとしたライティングやウォームアップにはより低いケイデンス、一方で高いエネルギーを使うTTではより高いケイデンスを使うこと。エリート選手でない限り、85rpmを超えるケイデンスで走ってもあまり得るものはない。
効率的に実力を上げるための5つの「してはいけないこと」
1.固定ローラー台の練習に集中しないこと。これは効率の上がるものとはいえない。代わりに、バランス感覚、調整、よりスムーズなペダルの動きのために3本ローラーを使用すること。
2.高負荷のインターバルトレーニングに重きをおきすぎないこと。効率向上に役立つという証拠はない。道路でピストまたは屋内でより低負荷でのスピンバイクトレーニングのほうがよりトレーニング効果が生まれやすい。
3.パワークランク(左右が独立しているクランク)は買わないこと。テストされたが効率向上には意味がないということがわかっている。
4.突然炭水化物を抜いたり、体を慣らそうとして長距離走行のとき食べ物を摂ることを制限しないこと。これは病気とハンガーノックを起こすだけだ。
5.110rpmまたは120rpmと、あまりにも高ケイデンスで走行しないこと。あなたに400~450ワット出せる実力がない限り、ペダルを下に押すのでなくただ空気を下に押しているだけになる!
効率的に実力を上げるための4つの方法
1.3本ローラーに乗ること。現在ワイドスクリーンのトレーニングシステムが固定ローラー台と接続できるとあり、シンプルな3本の棒だけで出来たこの機械は見落とされがちだ。しかし、トラック競技者、タイムトライアリスト、シクロクロスの選手たちは、効率的なプログラムの1つとして3本ローラーの練習を取り入れている。短期間で1~2%代謝効率も向上し、スムーズなペダリングスタイルを取得することができる。
2.もっとバイクに乗ること。距離乗れば乗るほど効果的という直接的な数字はここにはないが、よいライダーは週に数回バイクに乗る。バイクに乗る回数の最低レベルは決めておかなくてはならない(どのレベルの人も)。使用ケイデンスをいろいろ変えてみる、バイクの種類(ピスト、オフロードMTB、またナイトライドなど)を変えてみて、ハンドリングスキルを磨けば、より良い乗り手とバイクとのパートナーシップを手にすることができるだろう。
3.真円形状でないチェーンリングを使ってみる。Q-Ringフロントチェーンはペダル効率性を向上させることができる。ダウンストロークで抵抗を増やし、ボトムとトップのストロークで楽にペダリングでき、特に登りで新しいペダリングスタイルについて考える必要なく楽にペダルを回すことができる。
4.ケイデンスを変えて走ってみる。非常に低ケイデンス(例として50rpm、大きなギアでスムーズに、負荷をコントロールしながら)から筋肉繊維を燃やすために速い8秒スプリントまで。一定の楽なケイデンスやスピードで走るよりも効果がある。ケイデンスを変えて走ることで、体の神経、筋肉、エネルギーシステムが対応するため作動しようとするのだ。
text:Joe Beere
translation:Reiko Kato