2006/7/31 12:51
ツール・ド・フランス第17ステージのドーピング検査で陽性反応が出たフロイド・ランディス。総合優勝決定後の衝撃の発表、第17ステージ前夜についてのランディスの釈明、検査の流れや疑問点など、ここまでの経緯を解説する。
マドリッドでの記者会見で、ランディスは以下のように語っている。
「モルツィーヌへのステージの前夜、友人やチームメイトと一緒にホテル近くのバーへ行って、ビール2杯とジャックダニエル(ウィスキー)をグラスで4杯飲んだ。普段はレース中はまったくアルコールは飲まないが、あの(大崩れしたステージの)夜は例外だった。23時半に眠りについたが、翌日には何も悪影響は残らなかった。たぶんアドレナリンとツールへのエネルギーのせいだろう」。
ランディスは、検査値に異常が出た原因を、前夜の酒か、甲状腺の問題、あるいは自然に体内で増加したためではないかとした。
アルコールが問題の検査値を左右したという研究例はあるが、ランディスが摂取した量はその影響があったとするには少なすぎるとも言われる。アルコールを摂取して3,4時間後、とくに女性においては影響が出ることはあるという。
甲状腺の問題とは、ランディスが患う股関節の問題で患部の炎症を抑えるために塗布している薬に含まれる副腎皮質ホルモンの影響だ。
加えて「内分泌された自然なもの」というランディスの主張。「すべてのアスリートはレースをするときT/E値(以下で説明)が上がるものだし、僕の場合はもともとそれが高いんだ」。
あくまで禁止薬物摂取を否定するランディスの主張は認められるのだろうか?。
今回、ランディスに出た陽性反応には、疑問点が多いのも事実だ。以下、項目ごとに解説を加えながら状況をみてゆこう。
UCI(国際自転車連盟)では2006年から4:1を基準にしており、この値を超えるとドーピング陽性と見なされる(2005年以前の基準は6:1)。しかし、自然状態でT/E値4:1以上のスポーツ選手もいる。今回のランディスの検査値は公表されていない。
採取された検体は半分ずつに分割され、サンプルAが検査に回され、サンプルBは保存される。サンプルAの検査で陽性反応が出た場合、選手側の要求があればサンプルBも検査される。これは、検査作業自体の正確性を担保するための仕組みである。
テストステロンの場合、サンプルBで陽性反応が出てもそれで即ドーピングと断定されるわけではない。前項に書いたように、自然状態でT/E値の高い人もいるからである。その場合、選手は内分泌検査を要求でき、高いT/E値が生理学的あるいは病理学的理由で発生したものであり、人為的摂取によるものではないということを証明する道が残されている。
しかし、それでランディスの有罪の証明となるわけではない。この結果から明らかになるのは、第17ステージのゴール直後はランディスのT/E値が基準を超える値であったということ、そしてその測定自体は信頼できるものであるということの2点であって、肝心の疑問点である「テストステロンはどこから来たのか」が解明されるわけではないからだ。ランディスは、おそらく内分泌検査を要求するだろう。
また、仮にランディスが筋力増強効果を狙ってテストステロンを摂取したのだとすれば、数週間にわたって摂取していたはずで、やはり3回の検査で異常値が出るはずである。
では、ランディスはテストステロンを常用しておらず、第17ステージの起死回生の大挽回のために、その時だけテストステロンを摂取したのだろうか?。これはスポーツ医学的にはナンセンスである。テストステロンに持久力を増強する効果があるという医学的知見は今のところ皆無だからだ。
仮にランディスがドーピングを故意にかつ計画的に実行したのだとしたら、これではどうもお粗末であるとしか言いようがない。果たして、自身の破滅につながるかもしれない危険な賭けに踏み出すときに、そのようなずさんな行動を取るものであろうか。
「あの日はタイム差を挽回することが目的でなく、ステージ優勝するつもりだった」と語るランディス。優勝すればレース後にドーピング検査を受けなければならないことは分かりきったことだった。
一方で、これまでのところ、ランディス側から過去の検査結果などもともとT/E値が高かったことを示す証拠は提出されていない。
ランディス自身が会見で説明したとおり、彼は今年に入ってからツールでの4回を含め合計19回の検査を受けているが、T/E値陽性となったのは今回だけである。ただしドーピング発覚の多くのケースのようにマスキング(隠蔽)に失敗したということは考えられる。
現段階では疑問点は多々あるが、その答えはほとんど得られていない。有罪か無罪かの結論を出すには時期尚早だが、サンプルBの検査結果はまもなく出される。
text:Yohei.Fukataki
edit:Makoto.AYANO
ランディスのドーピング疑惑を解説
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| 『ルランゲ監督とランディス、第20ステージ前、移動の車中にて』 |
マドリッドでの記者会見で、ランディスは以下のように語っている。
「モルツィーヌへのステージの前夜、友人やチームメイトと一緒にホテル近くのバーへ行って、ビール2杯とジャックダニエル(ウィスキー)をグラスで4杯飲んだ。普段はレース中はまったくアルコールは飲まないが、あの(大崩れしたステージの)夜は例外だった。23時半に眠りについたが、翌日には何も悪影響は残らなかった。たぶんアドレナリンとツールへのエネルギーのせいだろう」。
ランディスは、検査値に異常が出た原因を、前夜の酒か、甲状腺の問題、あるいは自然に体内で増加したためではないかとした。
アルコールが問題の検査値を左右したという研究例はあるが、ランディスが摂取した量はその影響があったとするには少なすぎるとも言われる。アルコールを摂取して3,4時間後、とくに女性においては影響が出ることはあるという。
甲状腺の問題とは、ランディスが患う股関節の問題で患部の炎症を抑えるために塗布している薬に含まれる副腎皮質ホルモンの影響だ。
加えて「内分泌された自然なもの」というランディスの主張。「すべてのアスリートはレースをするときT/E値(以下で説明)が上がるものだし、僕の場合はもともとそれが高いんだ」。
あくまで禁止薬物摂取を否定するランディスの主張は認められるのだろうか?。
今回、ランディスに出た陽性反応には、疑問点が多いのも事実だ。以下、項目ごとに解説を加えながら状況をみてゆこう。
テストステロンとは
いわゆる男性ホルモン。常用すると筋肉増強剤として作用するが、副作用として毛深く、声が低くなり、頭髪が抜ける。ドーピング薬物としては、合成のアナボリック・ステロイドが使用される。「筋肉増強剤」「筋肉増強ステロイド」などと呼ばれる場合もある。検出方法は
尿あるいは血液の分析により、テストステロンとエピテストステロンの比(以下T/E値)を測定する。エピテストステロンはテストステロンの前駆体で、それ自体はテストステロンの効果を持たないが、多くの男性のT/E値は1:1〜2:1であることから、これを測定することで故意の摂取を識別できるというわけである。UCI(国際自転車連盟)では2006年から4:1を基準にしており、この値を超えるとドーピング陽性と見なされる(2005年以前の基準は6:1)。しかし、自然状態でT/E値4:1以上のスポーツ選手もいる。今回のランディスの検査値は公表されていない。
UCIの検査手続きは
ツールでは各ステージのゴール直後に、全選手から無作為抽出した選手3名、ステージ優勝者、マイヨ・ジョーヌ着用者の合計5名から尿検体を採取する。採取は医療用モーターホームで、フランス政府スポーツ省が任命した医師2名が行う。UCIの医学担当者も同席する。採取自体を医師の面前で行うことで、検体すりかえなどの不正ができないようになっている。採取された検体は半分ずつに分割され、サンプルAが検査に回され、サンプルBは保存される。サンプルAの検査で陽性反応が出た場合、選手側の要求があればサンプルBも検査される。これは、検査作業自体の正確性を担保するための仕組みである。
テストステロンの場合、サンプルBで陽性反応が出てもそれで即ドーピングと断定されるわけではない。前項に書いたように、自然状態でT/E値の高い人もいるからである。その場合、選手は内分泌検査を要求でき、高いT/E値が生理学的あるいは病理学的理由で発生したものであり、人為的摂取によるものではないということを証明する道が残されている。
ランディスのケース
ランディスの場合、7月20日の優勝したステージ後の尿サンプルAにT/E値異常が認められた。7月31日にサンプルBの検査結果が出る予定だ。通常は検査方法がよほどずさんでない限り、サンプルAと異なる結果が出ることは考えにくい。しかし、それでランディスの有罪の証明となるわけではない。この結果から明らかになるのは、第17ステージのゴール直後はランディスのT/E値が基準を超える値であったということ、そしてその測定自体は信頼できるものであるということの2点であって、肝心の疑問点である「テストステロンはどこから来たのか」が解明されるわけではないからだ。ランディスは、おそらく内分泌検査を要求するだろう。
残る疑問点
ランディスは今大会で合計4回の検査を受けている。もし本人の主張通りもともとT/E値が高いのだとしたら、第17ステージ以外の3回の検査でも高い数値が出ていなければならない。人のT/E値は大きくは変化しないからだ。また、仮にランディスが筋力増強効果を狙ってテストステロンを摂取したのだとすれば、数週間にわたって摂取していたはずで、やはり3回の検査で異常値が出るはずである。
では、ランディスはテストステロンを常用しておらず、第17ステージの起死回生の大挽回のために、その時だけテストステロンを摂取したのだろうか?。これはスポーツ医学的にはナンセンスである。テストステロンに持久力を増強する効果があるという医学的知見は今のところ皆無だからだ。
仮にランディスがドーピングを故意にかつ計画的に実行したのだとしたら、これではどうもお粗末であるとしか言いようがない。果たして、自身の破滅につながるかもしれない危険な賭けに踏み出すときに、そのようなずさんな行動を取るものであろうか。
「あの日はタイム差を挽回することが目的でなく、ステージ優勝するつもりだった」と語るランディス。優勝すればレース後にドーピング検査を受けなければならないことは分かりきったことだった。
一方で、これまでのところ、ランディス側から過去の検査結果などもともとT/E値が高かったことを示す証拠は提出されていない。
ランディス自身が会見で説明したとおり、彼は今年に入ってからツールでの4回を含め合計19回の検査を受けているが、T/E値陽性となったのは今回だけである。ただしドーピング発覚の多くのケースのようにマスキング(隠蔽)に失敗したということは考えられる。
現段階では疑問点は多々あるが、その答えはほとんど得られていない。有罪か無罪かの結論を出すには時期尚早だが、サンプルBの検査結果はまもなく出される。
text:Yohei.Fukataki
edit:Makoto.AYANO

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