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2016/7/30 12:54

変化するレースシーン

変化するレースシーン:最新技術がもたらしたレースの高速化と落車一発で壊れる機材、たった一度のミスが命運を分ける高速バトルのスリルとリスク、表裏一体の機材進化のメリット・デメリット


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最新の技術は素晴らしい恩恵をレースにもたらしている。今年のツール・ド・フランスでもそれをはっきりと感じることができた。しかしその反面そこには恩恵とは程遠いデメリットも当然存在していた。それらはレースシーンに大きな変化ももたらしている。物事は一長一短、必ずしもいいことばかりではないし悪いことばかりではない。では何がレースシーンで変わってきているだろう?


『最先端機材の見本市状態のツール・ド・フランス ©Tim D.Waele』

『ブレーキも進化している ©Tim D.Waele』
まずはっきりと感じられるのがここ数年のレースの高速化だ。特に今シーズンは間違いなくレーススピード(平均速度)が上がっている。それが一番感じられたのは山岳ステージでの攻め方の変化だ。バイクの空力が良くなったことによる機材の加速性向上に伴い、各チームの戦略はペースアップしてライバルの攻撃を封じるという、”攻撃こそ最大の防御”という作戦が非常に頻繁に見かけられるようになった。典型的なのはチームスカイの戦略だ。チームとして上りセクションでペースアップをすることにより、ライバルチームのアシストを削り、そしてライバルチームがアタックを仕掛けることを抑制するのだ。このように一部チームの際立った組織力がこの流れにさらに拍車をかけている。

レースの高速化は当然のように平坦でもその戦略を大きく変えている。アタックを仕掛けるタイミングと追走が、以前よりも明確になってきている。追走でも今までの10km1分の法則(平坦区間では10kmで1分の差を詰めることが出来る)から、より短い距離で逃げを捉えるケースが圧倒的に増えてきている。それを可能としているのは最高速の上昇であり、それはレースシーンの戦略そのものを変えているのだ。


『もはやシャア専用か? ©Tim D.Waele』
高速化になったことでレースはより面白くなっているとは感じられる。しかしフレームとそれ以外の機材の軽量化などにカーボンが多用されるようになり、一度の落車で破損してしまうケースが増え、頻繁な機材交換が目立つようになった。

ワンミスですべてを失うのは今年のジロ・デ・イタリアでの勝負どころの山岳ステージでも見覚えがあるはずだ。総合リーダーの証であるマリア・ローザを着用するスティーブン・クルイシュウィック(ロットNLジャンボ)は山岳ステージで雪の側壁に突っ込み落車、すぐに起き上がりバイクに乗って再スタートをきったが、バイクは損傷しており、この後バイク交換を余儀なくされ、大金星とも言える総合優勝を逃してしまった。この落車は確かに派手な落車ではあったが、やはり機材交換をしなければ乗れないという状況になってしまうことは、勝敗に致命的な差を与えてしまうことがあるのだ。



『ツールでバイクが接触し破断したフルームのフレーム ©Tim D.Waele』
カーボンなど軽量素材が多用されることで増えたのが「破断」だ。繊維を樹脂で固めただけのカーボンは、強い負荷がかかると破断する。それに対し金属系は「曲がる」や「凹む」となる。軽量カーボンバイクが増えたことで、バイク自体はある意味脆くなったといえる。通常仕様では問題なくとも、一旦余計な力が加わると破損してしまい使えなくなるのだ。わかりやすく例えて言えば、薄氷の上を歩くことはできても、その上で跳ねれば氷は割れて水中に落ちてしまうということだ。



『ビッグプーリーは今や大人気だ ©Tim D.Waele』
又電動では思わぬメカトラも発生、落車をせずともタイムを失うケースが発生、不可抗力によるメカトラのやりきれない怒りを機材にぶつける選手も時折見かけるようになった。電動変速機では一度何らかの理由でシステムが狂うと、その場での修復がほぼ不可能であり、結局ほとんどのケースでバイク交換が必要となってしまう。ワイヤー式であれば、多少のトラブルであっても調整が可能であり、乗ったままでの調整や、最悪そのまま”だましだまし”乗ることも可能なのだ。電動の場合勝手にシフティングしたり、逆にシフティングしなかったり、今年のジロでニーバリが個人TTで経験したようなチェーンが脱落し続ける(その末にリア・ディレーラーがブラケットごともぎ取れた)など、今まではなかったタイプのトラブルを見かけるようになっているのは間違いない。



『ツールでの機材ドーピングテストの様子 ©Tim D.Waele』

『ツールでの機材ドーピングテストの様子その2 ©Tim D.Waele』
また昨今では機材革新が進み過ぎ暴走、機材ドーピングという新手の難題も発生している。今年のツールでも検査が常時行われるなど、技術革新は常にある種のリスクと表裏一体なのだ。今現在の流れはメーカーや生産者組合が作っている流れであり、選手たちの声が拾われていない現実がある。ただ技術革新を全て否定する必要はない。これも一つの時代の流れであり、技術者たちの努力の結晶でもあるのだ。一長一短、それぞれにはメリットとデメリットが有る、それは実戦の場でより磨きぬかれ、時に技術はさらに進化を遂げ、時に技術は古き好きに回顧することもある。ただ、今現在のように業界が使用機材を決めるスタイルから、選手たちの声を反映する形への変化と改革は間違いなく必要だ。選手あってのこのスポーツ、自転車レースがこれからどこへ向かうのか、その未来は選手たち抜きでは語れない。

H.Moulinette
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