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2013/7/27 15:33

Christophe Bassons ~ a loner against doping

ドーピングという闇の力に屈しなかった男、クリストフ・バッソンス〜なぜ正しきが責められ引退にまで追い込まれたのか?


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1998年のドーピング問題が表沙汰になり、ある男が注目を浴びている。彼の名はクリストフ・バッソンス、一貫してアンチードーピングを貫き、ドーピング蔓延する自転車界に一人で喧嘩を売った男だ。いったいバッソンスに何があったのか、そしてなぜ彼は一人でも自分の信念を貫けたのか、今こそ彼のことを再評価する時ではないだろうか。


『正しいことをした人間が孤立する、あってはならない現実があった』
元フランスTTナショナル・チャンピオンとして1996年にプロ・デビューしたバッソンス、期待されて出場した1998年ツールで発覚したフェスティナ事件で、彼の人生は大きく変わってしまうこととなった。大会期間中にチームカーから発見された大量の禁止薬物により、1チームがまるごとツールから除外され、世の中にロードレース界のドーピングというものが大きく認識された有名な事件だ。当時フェスティナに所属していたバッソンスも、いきなりその渦中の人となった。しかしその後の取り調べの中で、チーム関係者が口をそろえて”一人だけドーピングを拒否し続けた”と語ったのがバッソンスだ。当時EPOを使用することで、月270,000フラン(当時の日本円で540万)の報酬を掲示されたが、それをチーム内で唯一拒み、魂を金で売らなかったただ一人の男となった。

裁判でただ一人潔白が証明されたバッソンスは翌1999年はフランセーズ・デジュー(現FDJ.fr)に所属すると、ツール・ド・フランス主催者と同グループのパリジャン紙にコラムを持つこととなった。そしてそこでバッソンスは本来クリーンなレースとして再スタートを切るはずだった1999年のツール・ド・フランスに、全くクリーンさが見られないことを嘆き、内部告発的に内情をコラムに綴った。

そしてサストリエールからラルプ・デュエズまでの第10ステージで事件が起こった。ランス・アームストロングが音頭を取り、全選手にバッソンスを無視するように仕向け、わざと超スローペースでレースを展開させたのだ。しかしバッソンスはこのことをのメカニックの一人から密かに聞いており、茶番に付き合うつもりはないと単独で逃げを敢行した。平坦区間で集団は急速にペースアップしバッソンスを捕まえると、集団の中でバッソンスを孤立させた。そしてランス・アームストロングは集団の眼前で彼に近寄り肩を掴み、脅しをかけたのだ。


『”ボス”の権力が暴走した』
「お前の言っているドーピング蔓延は嘘っぱちだ。お前が自転車レース界のイメージを地に落としている。お前のやっていることはプロフェッショナリズムに反する。お前なんぞさっさとこのツールリタイアして自転車レースも辞めちまえ。お前など糞食らえだ。そもそもなんでお前はこんなことをしているんだ。」そう言い寄るアームストロングに対し「僕は次世代の選手のために今のこの自転車界を正したいんだ。」とバッソンスは言い放った。それに対してアームストロングは「そう思うならお前が自転車界から消えろ。」と吐き捨てた。

このステージ後にアームストロングはテレビのインタビューに対し、「彼の告発はチームのためにもレース界のためにも、自転車ファンのためにもならない。彼はさっさと自転車界から去るべきだ。」と語った。

それに対して翌第11ステージ終了後にインタビューに答えたバッソンスは、「チームメイトからも”お前口に気をつけろよ”などと言われ、誰ひとり僕と会話どころか目も合わそうとしない。」と語り、もう精神的に耐えられないとしてツールからのリタイアを選択した。チーム内でも首脳陣からは見放され、誰一人として彼に声をかけることもなくバッソンスはこの年のツールを後にした。

スタンドアローンな彼のやり方は 周囲の空気を読まなかったと言われ、立ちふるまいが下手だったことが彼を孤立させたことは間違いない。いかに選手のみならずレース界自体がドーピングに飲み込まれていたのかがよく分かる。これをもってしてUCIが何も知らなかったという言い訳が通るだろうか?責任がないといえるだろうか?


『短かった選手生活、しかし彼の勇気は決して無駄になっていないと思う』
当時のフランススポーツ大臣は、「ドーピングに対して戦っているあなたに対して刃を向ける、このスポーツ自体がおかしい。」とバッソンスに書簡を送り、彼の置かれた状況に同情を見せた。これがせめてもの救いだったと彼は語っている。しかしよく考えて見れば、この大臣の言葉さえも無きものにするほど、スポーツ団体のみならず、製薬業界、スポンサーなど大きな後ろ盾があったからこそ、ドーピング問題が長年まかり通っていたことを痛感させられる。

翌年も小さなチームでレースを続けたが、徹底した無視など選手たちによる彼への嫌がらせは続き、ついには故意に路肩に追い込まれ落車をさせられそうになったことで、身の危険を感じ引退せざるをえなかった。「他にもクリーンな選手もいるはずなのに、なぜ声を上げない?ロード界には失望したし、自分が人生を賭けるだけの価値はない。」との言葉を残し、バッソンスは短いロード選手生活に別れを告げた。

しかし彼の不運はこれで終わらなかった。マウンテンバイクでのレースを続けたバッソンスは、2012年のフランスナショナルチャンピオンシップで、無作為のドーピング対象に選ばれたのだが、コース半ばでリタイアをしたためにそのことを知らないままに帰路についてしまった。後から知らされて慌てて会場に戻ったが、テストに間に合わずにフランス自転車協会から1年間の出場停止を言い渡された。しかしこれもこの後、競技連盟側の落ち度が認められ、結局1ヶ月の出場停止(自分が検査対象かの確認を怠った為の処分)へと変更されたのだ。この一件でも不可解なことが幾つもあり、ドーピング問題をまな板に乗せた彼への恨みというものが、自転車界にはまだ残っているとも言われている。

アームストロングのドーピング問題発覚後、同じくドーピングを認め知っていること全てを公表すると暴露本を出版したしたタイラー・ハミルトンが、公式の場で1998年の彼に対する非道を正式に謝罪した。バッソンスはそれに対し、「あの当時レースの”ボス”となっていたアームストロングに逆らえなかったことは理解できる。彼を個人的に責めるつもりはないよ、これもまた人生だし。」と語り、大人な対応をしてみせた。



『どれだけの人が、これだけのことがあっても"これが人生"といえるだろう』
世間では大勢側が正しく、少数派側が間違っているという多数決の論理で動かされることが多い。それは単に人の意見に感化され、真実から目を背け、周囲の意見を気にして判断基準にする傾向があるからだ。時として少数どころか、たった一人の人間の言葉のほうが正しいこともあるのだ。これは群集心理主義といわれる日本ではなおさら耳が痛いところだ。そんな中で、ほとんどの元選手や関係者がバツが悪くなかなか謝罪の言葉をかけられない中で、きちんと公の場で謝罪の言葉を述べたハミルトンは思惑はどうあれ紳士であったと思う。

自分の信念を貫いたあまり、大好きな自転車競技をすてなければならなかった男の苦悩、もはや”いじめ”とも呼べるほどに露骨な嫌がらせを受けながらも揺るがぬ信念を貫いたのは立派なことであり、バッソンスが受けてきたいわれなき誹謗中傷や批判に対する謝罪を、ロード界は示す必要が有るだろう。

その後バッソンスは体育教師をする傍ら、ボルドーの青少年課でスポーツにおける薬物の恐ろしさを教えている。「今はアームストロングに対する恨みつらみはないよ。彼もまた時代の犠牲者だったんだよ。」そう語るバッソンスの姿は、どこまでもまっすぐだった。

H.Morine
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